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1920s
サロンズ・オブ・アメリカと
独立美術家協会

Fig. 11. サロンズ・オブ・アメリカ会場写真

1920年代のアメリカは第一次大戦後の好景気に湧いていました。街にはフラッパーといわれた、断髪に丈の短いスカート姿の女性たちが闊歩し、ラジオや映画、ダンスホールなどの大衆文化が発展した狂騒の時代でした。美術界は、それまでのヨーロッパの写実的技法によるアカデミー派からモダニズムの影響を受け、アメリカ独自の芸術を模索した時期です。

その先駆けになったのは1908年にマクベス・ギャラリーで開かれたジ・エイトの展覧会です。ここには、街の路地裏や社会風俗を題材に描き、アッシュ・カン・スクール(ゴミ箱派)といわれたジョン・スローン(John Sloan)やロバート・ヘンライ(Robert Henri)らの作品が展示され話題になりました。また1913年にはアーモリー・ショーが開催されます。ここには印象派からモダニズム至るまで絵画、彫刻、グラフィックアートの作品約1600点の作品を展示し、アメリカの美術界に大きな影響を与えました。

そして、1917年に独立美術家協会、1922年にサロンズ・オブ・アメリカがそれぞれ設立され、無審査、無賞の年次展覧会が開かれます。これらの展覧会は、国籍や技法を問わず誰でも出品が可能だったことから、多くの日本人が作品を発表しました。

1918年の第2回独立美術家協会展に出品された、萩生田真陽の《赤い風呂》は、曲線を基調にして日本の公衆浴場を描いた作品です。公衆浴場を知らない当地の人々は、作品の題名に驚いたようです。


『日本人』に、渡辺寅次郎はこう記しました。 

『日本人』には、「インデピンデントに『血の湯』なんて、ダンテの地獄煉獄にありさうなすご味のある題名の大作を公けにして時分てんぐ連共を驚かした」 

(渡辺寅次郎「画彫会会員側面観」『日本人』99号1923年2月25日)

Fig. 12. 萩生田真陽 《赤い風呂》

独立美術家協会やサロンズ・オブ・アメリカに発表された日本人の作品は、英字新聞も取り上げました。

『ポスト』による批評 Post: article:

「最も興味深い印象を日本人画家は描いている、なぜなら彼らは新鮮な視線で西洋世界を見ており、それは私たちの目には輪郭がぼやけて映るものを彼らの作品にはさわやかで鮮明に表現されているからである。彼らは芸術的伝統により私たちの世界に新しい視線を与えている」

(“Japanese Artists”,Post,  Oct. 31,1925)


『ワールド』による批評

「忙しいアメリカを描いた絵はアメリカ人ではなく、日本人によるものである。日本人はアメリカの画家が目の前にある新しい題材を使わないことを絶えず責めている。そしてアメリカの人々が見過ごしている題材に彼らは痕跡を表している。日本人はユーモアのセンスがあるがそれがどのくらい善意で描いているのか西洋人にはわからない。例えば藤岡昇のアメリカ魂、石垣栄太郎の行列聖歌、清水清の14丁目、角南壮一のダイクマンのテニスコート、臼井文平のサマー・イブニングである。これらの日本人画家は二つの個性を持っている。彼らはニューヨーク・シーンから非常に活気があり面白く表現し、彼らはそれを新しい芸術論とするのではなく、むしろ明快に表そうとしている」

(“Independent Exhibition has Over a Thousand Works by Beginners and Experts,” World, March 21. 1926)


日本人芸術家は、近代文明の発展がもたらした1920年代のアメリカ社会の暗部を描いたのです。英字新聞は、日本人による作品を外国人の視線で社会の側面を取り上げたユーモアと風刺のきいた作品として取り上げました。

このようなアメリカ社会の批評を受けて、国吉康雄は日本人の創作活動の方向性を次のように述べています。

「現代生活を風刺してサテイリクにかいた、藤岡、清水、石垣、保諸氏の作は東西人の目を引いた出品であった。一般日本人は先天的に奥深いヒューマーを持って居る。然しそれのみにたよらず諸氏の技芸と頭脳とが平衡を保てばもっと動かす事のできぬ重みのある作品が出来ると思ふ。」

(国吉康雄「サロン展寸評」『日米時報』1927年5月7日)

国吉康雄は、日本人は特有のユーモアとセンスを活かし、尚且つ技法を磨いていくことが創作において重要であると指摘しました。1920年代のアメリカの美術界における日本人の活動は、この後1927年に紐育新報社主催の邦人美術展覧会にも表れていきます。

 

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