『The Silent Witness(静かなる証人):広島の生存者の物語』 モリモト・トミコ・ウエスト

『The Silent Witness(静かなる証人)』は、ライフ・ストーリーズ(Life Stories)によって制作された18分間のドキュメンタリーで、広島での被爆を生き延びたモリモト・トミコ・ウエストの証言に焦点を当てている。1932年、広島に生まれたモリモトは、1945年8月6日、米軍によって投下された世界初の原子爆弾により、13歳で被爆した。

爆発の瞬間、軍需工場で作業中だったモリモトは、音のない強烈な白い閃光を目撃し、その衝撃で地面に倒れた。建物の壁により命は助かったが、街は壊滅状態にあった。その後、近くの山に逃れ、洞窟で避難生活を送りつつ、数日後には焼け野原となった市内に戻り、家族の遺体を探し歩いた。最終的に祖父の遺体を発見し、自ら木を集めて火葬を行うことで、死に対する敬意を表した。

彼女の体験は、原爆投下直後の様子を伝える数少ない一次証言のひとつ。皮膚が焼けただれた人々、水を求める叫び声、街を覆う死の気配が語られている。こうした体験が、核兵器と戦争に対する反対の姿勢を形づくる根源となった。作中でモリモトは、「戦争は良くないということを伝えたい」と語っており、証言は単なる記録にとどまらず、未来への警鐘でもある。

戦後、モリモトはアメリカに移住。アメリカ人兵士との結婚を経て、ニューヨーク州のヴァッサー大学で日本語を教える教授としての道を歩んだ。長年、広島での体験について公の場で語ることはなかったが、近年は学生や平和団体、市民に向けて証言を行うようになった。被爆者の高齢化が進むなか、その声の意義はさらに増している。

『The Silent Witness』は、ライフ・ストーリーズが展開する「Life Stories」シリーズの一作品として、全米の教育機関で活用されている。中高生向けの指導ガイドも付属し、原爆の歴史的、倫理的、感情的側面についての理解を深める教材となっている。

現在90代のモリモト・トミコ・ウエストは、静かに、しかし力強く平和の大切さを語り続けている。国や世代を超えて生きるその歩みは、広島の記憶を単なる破壊の象徴ではなく、人間の良心への問いかけとして伝えている。

クレジット:
制作:Life Stories
作品名:『The Silent Witness: A Survivor’s Story of Hiroshima』
詳細情報:https://www.lifestories.org/films-series/the-silent-witness

Subject:
Tomiko Morimoto West
Year:
1932
Media Type: