土門拳 ― 近代日本を写した写真家

土門拳(1909–1990)は、20世紀日本を代表する写真家の一人である。山形県酒田に生まれ、当初は画家を志したが、1930年代に写真へと転じた。1933年に宮内小三郎写真館で修業を始め、1935年には名取洋之助が主宰する写真・デザイン集団「日本工房」に参加した。同工房が発行した英文雑誌『NIPPON』では、伝統と近代を融合させた日本のイメージを海外に発信し、土門は報道性と造形性を兼ね備えた作品を手がけた。

1939年、土門は政府系の国際文化振興会(KBS)に所属し、海外における文化宣伝活動に従事した。この活動の一環として、1939–40年ニューヨーク世界博に出品された写真壁画《日本産業》の制作に関わった。《日本産業》は「造船」「手工芸」「紡績」「機械」「航空」の五つのパネルで構成され、土門をはじめとする若手写真家の写真が使用された。さらに金属や木綿紐、ベニヤ板などの素材を組み合わせ、力強い立体感を持たせたこの展示は、日本の活力と近代化を示す視覚的象徴となった。

この壁画と並行して制作されたのが、折本形式の写真帖『Nippon: Japan the Nation in Panorama』(1938年)である。熊田五郎のデザインによるこの写真帖には、土門や木村伊兵衛の写真が収められ、海外向けに配布された。媒体は異なるものの、《日本産業》と『Nippon』は共通して「伝統と近代を併せ持つ日本」の姿を表現し、統合された国家像を国際社会に提示した。

戦後、土門は大きく方向転換し、「リアリズム写真」を掲げた。演出を排した「スナップ」によって、被写体の現実をそのまま写すことを重視したのである。広島の被爆者、筑豊炭鉱の子どもたち、下町の人々の生活などを捉えた作品群は、戦後社会の現実を鋭く記録するものとなった。

同時に、土門は仏像や古寺建築の撮影にも生涯を捧げた。1939年に初めて訪れた室生寺を皮切りに、長年にわたり仏教美術を撮影し続け、代表作『古寺巡礼』(1963–1975年)を完成させた。そこには信仰への敬意と緻密な記録精神が共存している。

土門の活動は国際的にも評価され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)では1958–59年の「Photographs from the Museum Collection」展、1974年の「New Japanese Photography」展に出品された。1983年には故郷の酒田市に日本初の写真家個人を冠した美術館「土門拳記念館」が開館し、その業績が顕彰された。

ニューヨーク世界博の大規模な展示から、戦後社会のリアリズム記録、そして古寺の仏像写真に至るまで、土門拳の歩みは写真が持つ力を体現している。それは、日本が自国をどのように見せ、また自らをどう見つめ直してきたかを示す重要な証言でもある。

参考文献

  • Takenaka, Akiko. The Construction of a War-Time National Identity: The Japanese Pavilion at New York World’s Fair 1939/40. Master’s thesis, Massachusetts Institute of Technology, 1997.

  • Yamamoto, Sae. “The Influence of Photo-Reportage on Photo-mural ‘Nippon Sangyo’ at the New York World’s Fair, 1940.” Bulletin of Japanese Society for the Science of Design 56, no. 2 (2009): 63–72. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssdj/56/2/56_KJ00005757828/_pdf.

  • Museum of Modern Art. Photographs from the Museum Collection. Exhibition, New York, November 26, 1958–January 18, 1959. https://www.moma.org/calendar/exhibitions/2442.

Subject:
Domon Ken
Year:
1909–1990
Media Type: